プロテイン

 今日は祝日で仕事が休みだった。平日の合間にぽかんと現れた間欠泉のような休日だった。こういうあぶく銭っぽい休日には強気に何か新しいことをしたくなる。今日の自分の場合は目覚めて即「プロテインを買いたい」という思いに駆られたのでプロテインを買いに行った。

 補足説明になるが自分は数ヶ月ほど前からダイエットおよび筋力トレーニングを日々実施している。開始したきっかけは人生で初めて体重が60kgを超えたことだった。自分の身長は成人男性の平均を下回っており骨格も細いので60kgを超えると結構な贅肉をこしらえていることになる。このままではいけないと思った。よほど精神力の強い人は別かもしれないが自分のような意志の弱い人間の場合たとえば朝起きて「今日はあれとあれとあれをこなしてアップルのCEOになるまでの一歩を着実にこなそう」と奮起してもいざ着替えるときに鏡に映ったブリヂストンマスコットキャラクターみたいな体を見るだけで「あぁもうワイみたいな半妖が何をやったところで……」と一気にやる気が雲散霧消してしまう。20歳を超えた男の体は普通に過ごしていると現状維持もままならずあれよあれよという間に太鼓腹ができあがってしまう。もしそれに抗うことなく若いうちから飛べない豚になることを受け入れてしまうときっと他の分野の夢や希望もすぐ諦めてしまう思考回路につながるのだろう(何度も言うがよほど意志の強い人は別かもしれない)。また三島由紀夫は著書の中で「思想は行動によって実践されなければ意味がない。行動は肉体によって為される。故に肉体を鍛えなければならない」という趣旨のことを書いた。自分は死ぬまでに三島由紀夫がやったことをすべてやる予定なので肉体の鍛錬についても例外なくやらねばならない。

 本筋に戻るが自分は何かするとなればいつも入念な下調べをする人間なので早速インターネットでプロテインについての情報を集めた。その効用・メリットデメリット・使用方法の詳細を読みあさり細く引き締まった体になるために最適なプロテインを調べスクリーンショットまで撮って梅田の百貨店のトレーニンググッズ専門店へ足を運んだ。準備は万端だった。

 棚を一通り見たところ自分の調べたプロテインが見つからなかったので近くにいた色黒で藤崎マーケットの3人目(藤崎マーケットは2人しかいないがそういうイメージだった)みたいな店員さんにスクショの画面を見せながら話しかけた。

自分「すみません、これって置いてないですか?」

藤崎「あ、これ無いですね! これあんま良くないですよ! 名前で売れてるだけで!それだったらこっちの方が……」

 苦労して調べ上げた製品は店員さんの脊髄による判断にて秒速で否定され瞬く間に別の製品のセールスを怒涛に受けた自分は結局ものの3分も経たぬ間に店員さんの薦めるがまま5,800円/2週間分のプロテインを買ってしまって成功されたレイプみたいだった。

 そのあと飯を食って家に帰り筋トレをしてプロテインを飲んだ。人生初のプロテインは宇宙人の精子みたいな味がした。