男児

 夫婦が経営するアットホームな雰囲気の定食屋で昼飯を食べて満足した気分になり「TSUTAYAで映画でも借りて帰るか」と思って駅前のTSUTAYAに入った。タッチパネルの検索機で気になる映画を何本か検索していたらすぐ横を30代くらいと思われる女性が5歳くらいの男児の両脇を持って抱えながら急ぎ足で店の出口の方へ進んでいった。しかしそんなことは当然特に気にも留めずタッチパネルの操作を続けていたら来た。すごいのが来た。猛烈な刺激臭が来た。鼻腔をつんざき鼻毛も揺らすほどのにおい。気を抜けば食べたばかりのアジフライ定食をマーライオンより勢いよく嘔吐しそうになるほどのこのにおいは紛れもなく う ん こ のにおいだった。薄れゆく意識の中で記憶をたどると辻褄が合った。先ほど女性に抱えられていた男児が漏らしたのだ。男児の肛門から産み落とされたうんこは男児の肛門から産み落とされたうんことは思えないほどの莫大なエネルギーを発揮して周囲に刺激臭の粒子がスーパーノヴァのように拡散し男児が店外へ運ばれたあとでもなおその刺激臭の残滓がしぶとく猛威を振るった(イ○ラム国から男児にスカウト来てるんじゃないかな)。男児が傍を通った際まともに粒子を浴びてしまった自分の脳の機能はどんどん低下していきギリギリのタイミングで「これ以上ここにいては危ない」と判断できた自分は駆け足で店の外に出た。店を出る直前のIQはファービーと同じくらいのレベルまで落ちていてかなり危険な状態にあったが間一髪だった。

 涙目になりながら深呼吸をして落ち着きを取り戻すとやがて落ち着きは熱い怒りに変わった。何とかして一矢報いてやりたいと思い周囲を見渡すと少し向こうで先ほどの男児が女性にパンツを脱がされているのが見えた。ひたすら狼狽の表情を浮かべる女性に反して男児の表情は老獪なエクスタシーに満ちておりとても5歳児の表情筋が造形できる代物ではなくその表情を見た自分はプフのオーラに心を砕かれたノブのように戦意喪失して映画を借りることもなく腰を丸めてとぼとぼと家に帰った。今年一番ジャックナイフのような日だ。