ゆらゆら帝国

 ゆらゆら帝国というバンドが好きだ。サイケデリックロックと呼ばれる音楽性で異彩を放った3ピースロックバンドで2010年に解散している。自分は当初「ゆらゆら帝国」というバンド名から奇を衒った薄っぺらいトリッキーバンドの印象を勝手に持っていて食わず嫌いしていたが聞いてみるとそのイメージはまったく間違いだったことに気付いた。サイケデリックロックと呼ばれるだけあって酩酊的なサウンドが特徴だがその骨格はしっかり芯のある骨太ロックだったのだ。安定した王道ロックのかっこよさを根底に持ちつつもそこに乗ってくるサウンドの酩酊感・美しさ・繊細さに自分はすぐ虜になった。

 好きな曲をいくつか挙げていく。『ラメのパンタロン』や『ゆらゆら帝国で考え中』『ズックにロック』なんかはもうバリバリゆらゆら帝国ロックという感じでストレートにかっこいい。『空洞です』『できない』『美しい』など後期の曲はかなりできあがりきった余裕の感じられる雰囲気で全体的に漂う開き直った感じの諦観と万能感がたまらない。『恋がしたい』『バンドをやってる友達』などはメンバー以外の女性がヴォーカルとなっている変わり種の曲だがそれぞれ一つの作品として光っている。『待ち人』はこんなの泣いてしまう。  

 ゆらゆら帝国の魅力はサウンドだけでなく歌詞にもあると思う。ギターヴォーカルの坂本慎太郎氏の書く歌詞は曲の世界観にマッチした独特の空想世界なのだがそれは単に幻想的だとかそういうものとは少し違う。曲の雰囲気も相まって一見非現実的に感じられる世界観の中に我々が普段の日常で抱く様々な情感が非常に繊細で巧妙な暗喩によって表現されているように思う。

 

ぼくの心をあなたは奪い去った 俺は空洞 でかい空洞

全て残らずあなたは奪い去った 俺は空洞 面白い

バカな子どもが ふざけて駆け抜ける 俺は空洞 でかい空洞

いいよ くぐりぬけてみな穴の中 どうぞ 空洞

 

 非現実的な世界観の中に突如立ち現われる鋭い共感はゆらゆら帝国でしか感じられないまさしく唯一無二のものだ。彼らの歌詞にはメッセージ性だとか訓示だとか批判だとかそういう説教じみた要素はまったくない。曲を聴いた人たちの人生に少しでも影響を与えたいとかいう類の創作者側の自己顕示の色も作品の中に一切顔を出してこない。本当に一寸の隙もない。ただ心の機微を美大出身の坂本氏ならではの感性で美しくエロくおしゃれで細やかに空想と絡めつつ「表現」したものを作品として生み落とし続ける。これこそがゆらゆら帝国の音楽であり芸術なのだと思う。  

 できれば解散する前に好きになってライヴも観に行きたかった。坂本慎太郎氏は現在もソロで活動しているので今後もますます期待している。    

 

 書いてから思ったが本当に完成されたものの素晴らしさを正確に説明するのは容易なことではなく自分のようなデイリーヤマザキ級ブロガーの説明じゃ聞いたことない人には絶対伝わらないと思ったので動画を貼っときます。

 

空洞です

   

 

夜行性の生き物三匹