糖尿病

 「甘いにおいがする」と人から言われるようになった。甘いにおいと言ってもそれは異性を惹きつけるフェロモンのような魅惑の香りという類のものではなく「むせ返りそうなココナッツ臭」「腐ったバナナのにおい」に近いものらしい。インターネットで調べてみると体からそのようなにおいを発する人は「糖尿病の可能性あり」ということだった。さらにそこに記載されていた症状の「喉が渇きやすい」「頻尿である」などもちょうど最近感じるところであった。家系的にも糖尿病のリスクが高いことはもともと知っていたので将来発祥してもおかしくないと覚悟していたのだがこれは早くもそのときが来てしまったのかもしれないと思い自分はバイブのように体を震わせた。

 仕事の負荷が谷間の時期ということもあり自分は悠久休暇もとい有給休暇を取得して自宅からひと駅離れた所にある総合病院へ糖尿病検査を受けに行った。悪魔の宣告を受けるために限界丸(My自転車)を漕いで自らの体を病院まで運ぶ自分の心にはバイキンマンの基地の上空みたいなどす黒い暗雲が立ち込め口からは自然と『ドナドナ』のメロディがこぼれ落ちた。病院に着くと外来患者用の駐輪場が見つからずしかたなく職員用の駐輪場に一つ空きがあったのでそこに止めようとしたらなぜかその駐輪場は例のタイヤを入れる溝枠(伝われ)の左右の間隔が異常なくらい狭くて限界丸を無理やり挿入すると両サイドの自転車のハンドルがすごい勢いでプレスしてきて限界丸の前かごに美しいくびれができた(「へぇ。こういうこもとあるんだ」と思った)。悪魔の宣告は眼前に近付いていた。

 受け付けを済ませてほどなく血液検査および尿検査をしてから約1時間の待ち時間を経て診察室に呼ばれた。検査の結果はまったく異常なしということだったので糖尿病の心配は綺麗に消えて残ったのは「自分の体から腐ったバナナのにおいがする」という事実だけになった。